クロダカイチの香港建物探記
黒田 海智(くろだ かいち)

東京都出身。コミックテイストを軸としたイラストレーションを製作。2005年に『happiness ten』展、2006年には六本木のスーパーデラックスなどで作品を展示。1998年の初渡港以来、趣味から主に香港の超高層の建築研究とサブカルチャー探訪を行う。

【中国銀行大廈 (Bank of China Building)】

超高層建築の立ち並ぶ香港の中環(Central)、その中にちょこんとと建っているのが中国銀行のビルです。香港の中国銀行の本社機能は、以前にも取り上げた、かの有吊な中銀大廈(Bank of China Tower)にあるのですが、今のどでかいタワーが出来上がる前まで使われていた建物も未だに残っています。

建物正面には一対の獅子が鎮座していたり、窓枠が中華風だったりと、面白い部分が何ヶ所もあるのですが、関係者以外は立ち入ることが出来ないビルなので、中の装飾などを見ることは出来ません。内装がどの様になっているのか、とても気になります。

建物は1950年に完成した、洋華折衷のどことなくアールデコな雰囲気を漂わせるビル。パーマー&ターナー(Palmer&Turner)事務所の設計です。パーマー&ターナーと言えば戦前、上海の外灘(The Bund)地区の多くの建物を設計した事でも知られています。この建物も、その流れで設計されたものなのかもしれません。実際、上海の外灘にある1930年代に建設された中国銀行大楼もパーマー&ターナーによる設計で、外観は香港のものととてもよく似ています。しかし、1950年代といえばニューヨークやシカゴでは既にインターナショナルスタイルと呼ばれるモダニズム建築が作り出され始めた頃。パーマー&ターナーによる、かつての華やかな上海を髣髴とさせるアールデコ調の建築は、この建物がもしかすると時代的にも最後だったのではないかという気がします。1960年代には、香港へもモダニズムの波が到来します。

戦後中国国内では大きな政変があり、パーマー&ターナー事務所の活動範囲は、中国から香港や周辺のアジア諸国へと移ります。施主である中国銀行自身も、元々国民党が支配していた中華民国の国営銀行であったものが、1949年の共産党が率いる共産政権の樹立によって、新政府に接収されてしまいました。香港の中国銀行大廈が竣工した時期は、中国銀行が中華人民共和国の国営市中銀行となり、台湾に逃れた国民党により、新たな継承銀行としての中国銀行(現:兆豊国際商業銀行)が台北に開設されるなど、混乱期にあったと想像されます。

そのような時代背景の下で完成したこの中国銀行大廈は、竣工時隣接する前香港上海銀行本店を抜き、中環で(恐らく香港でも)最も高いビルでしたが、今となっては周辺の超高層ビルに埋もれてしまいました。背後に迫る香港上海銀行は、1980年代に最先端のハイテクビルに建て替わってしまいます。スクラップアンドビルドが激しく、再開発が急速に進む香港という場所で、その歴史を見つめてきた建物の存在は、この都市の厚みを感じさせる重要なエッセンスと言えるでしょう。

また、銀行街の写真や界隈の地図を見ると判るのですが、この区画には香港の3大銀行であり、香港ドル紙幣発行銀行でもある香港上海銀行(HSBC香港)、スタンダード・チャータード銀行、中国銀行(香港)の本店が見事に並んでいます。少し歩いた場所には交易廣場(Exchange Square)の香港証券取引所(香港交易所)もあり、香港のみならず、中国やアジアの経済にとって、ここが昔も今も、とても重要な場所である事を教えてくれます。


【中国銀行大廈 (Bank of China Building)】

竣工年:1950年
階数:地上17階
用途:オフィス、レストランなど
住所:2 A Des Voeux Road Central Hong Kong

中国銀行大廈と周囲1。背後にはガラス張りの香港上海銀行が迫っている。

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中国銀行大廈と周囲2。香港の中心に位置し、吊だたる吊建築がその周囲を固めている。

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下から見上げたところ。アールデコ調の外観ながらも、随所に中華風の意匠が取り入れられている。

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旧ビルと新ビル(中銀大廈タワー)。実は中国銀行大廈も結構大きなビルなのだが、比較するといかに周囲の超高層ビル達が巨大なのかがわかる。