クロダカイチの香港建物探記
黒田 海智(くろだ かいち)

東京都出身。コミックテイストを軸としたイラストレーションを製作。2005年に『happiness ten』展、2006年には六本木のスーパーデラックスなどで作品を展示。1998年の初渡港以来、趣味から主に香港の超高層の建築研究とサブカルチャー探訪を行う。

【重慶大廈 (Chungking Mansions/チョンキンマンション)】

今回は重慶大廈という雑居ビルのお話です。

香港は1848年のイギリス統治以来、東西交通の要衝となる良港として発展して来きました。 今でも東アジアの重要な物流拠点である香港は、モノだけではなく、船から航空機へと移動手段が変化した現在の旅客にとっても未だ重要な拠点であり、東アジアで最も国際的な都市の一つであり続けています。

その姿を象徴するのが、超高層建築の立ち並ぶ金融街である香港島の中環(Central)と、九龍半島の先端に位置する尖沙咀(Tsim Sha Tsui)です。特に尖沙咀はかつて九廣鐵路(KCR)の終着駅だった九龍(Kowloon)駅があった場所で、駅にはフェリーターミナルやバスターミナルが隣接し、大陸交通と香港島への交通との往来の橋渡しを担う要衝でした。現在では、駅は紅磡(Hung Hom)へ移動し、跡地は香港文化中心(Hong Kong Cultural Centre)となり、駅の面影を残す建物はかつて駅舎だった時計塔のみとなっていますが、周囲の九龍公園にはイスラム教のモスクがあり、また香港で最高級とされるペニンシュラホテルをはじめ数多くのホテルが立ち並ぶ、今でも香港で屈指の国際色豊かな地域です。

重慶大廈はその尖沙咀の中に建っている雑居ビルです。日本では、旅行ガイドブックなどに安宿(ゲストハウス)の集まるビルとして紹介され、その吊が知られています。インド系の人々が集まる場所としても有吊で、下層階には多くの両替商やインド系雑貨店、カレー屋などが軒を連ね、東南アジアの市場に来たようなエキゾチックな雰囲気を醸し出しています。香港特有のゴチャゴチャ感が最も感じられる場所のひとつで、かつて九龍城地区にあり、1994年に解体された九龍塞城のようだと言う人もいるほどです。また王家衛(Wong Kawai)監督の映画、「恋する惑星(原題:重慶森林)《の舞台にもなりました。

重慶大廈の中には香港の雑居ビルでよく見掛ける光景が広がり、更に濃縮されています。通路に沿って行き交う電線や電話線、蛇腹のシャッター、天井に吊るされた扇風機、ブリキの郵便受け、これらのアイテム単体では何でもないものなのに、集合体となることによってここが「香港《という場所だと主張しているようです。最近では2階部分が改装され、現代的なショッピングモールのような雰囲気に生まれ変わったのは、時代の流れでしょうか。

このビルは、治安が悪い事でも知られていましたが、現在では警備員が巡回しており、治安は安定しているようです。また治安問題の他に、迷路のような構造や窓の無い部屋など防災についても問題があり、火災も幾度か起きているので、長期の利用には注意を要します。

重慶大廈は、元々1961年に店舗や高級アパートメントとして建設されたのが始まりでした。建設当時は周囲で最も高い建物だったようです。詳しい経緯は定かではありませんが、九龍地区随一の繁華街であることに加え、かつての九龍駅からは至近ということもあり、その地の利を生かして両替商やゲストハウスがオープンしていったものと思われます。現在でも、地下鉄(MTR)尖沙咀駅と隣接し、多くの外国人が集まっています。


【重慶大廈 (Chungking Mansions)】

竣工年:1961年
階数:地上17階、地下1階建
用途:住居、商店、宿泊施設など
住所:36-44 Nathan Road Hong Kong

重慶大廈全景、九龍半島を南北に貫く彌敦道(Nathan Rd)の始点部分に位置し、界隈は九龍でも最も繁華な地区のひとつ。

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周囲の様子、地下鉄(MTR)尖沙咀駅はこの道路の下に設置されている。

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重慶大廈上層階。この辺りにゲストハウスが集中している。

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下層階の店舗部分。入り口を入ると両替商が並んでいる。
その先にはインド系の飲食店や雑貨店が並ぶ。