クロダカイチの香港建物探記
黒田 海智(くろだ かいち)

東京都出身。コミックテイストを軸としたイラストレーションを製作。2005年に『happiness ten』展、2006年には六本木のスーパーデラックスなどで作品を展示。1998年の初渡港以来、趣味から主に香港の超高層の建築研究とサブカルチャー探訪を行う。

【力寶中心(Lippo Centre)】

香港と、日本の超高層ビルの違いは何でしょうか?
よーく見てみてください。何かが違うぞ……と、思う点が多くある事でしょう。日本では考えられない位置に巨大なネオン看板が設置されていたり(高さ100m以上の位置に、建物の屋上からはみ出していたりします)、建設中の足場が全て竹だったり…。九龍側から、ヴィクトリア湾越しに香港島を眺めていると、まるでビルの博覧会の如く建物が林立しています。しかしその中には様々な表情がある事に気付かされるでしょう。

香港のビルで最も特徴的な事、それは……「派手」な事です。
中華系の国々や地域の中には縁起を担いだり、願掛けをするかの如く、建物全体が金色に輝いていたり、およそ機能性とは程遠いと思われる奇妙な形をしたビルを、多く見かける事が出来ます。最近では上海や広州、お隣の深圳など中華人民共和国本土の主要な都市の中でも、香港を越える迫力を持つ建物が多く完成しつつありますが、まだまだ香港も負けていません。

香港では1970年頃から、主にオフィス用途を目的とした超高層ビルが本格的に建ち始めました。70年代から80年代初頭に建てられた遠東金融中心(Far East Financial Centre)や新鴻基中心(Sun Hung Kai Centre)など、モダニズム様式に近い風貌だったオフィスビルも、時代の移り変わりによって次第に複雑な形で設計される様になります。1970年代から90年代の建築は世界的に見ても、モダニズム建築からポストモダニズム建築へと移行していった時代。しかし、その流れに乗るかのように見えて、ニューヨークのマンハッタンやロンドンのドックランドなど世界の主たる建築の発信地とは、実は明らかに違うロジックが香港には流れていたのだと思います。それは風水などの、欧米ではおよそ理解されにくく、ましてや先進的な国際都市ではあり得ない非科学的な思想によるもので、これは現在に香港建築を語る上でも、なお重要な点であり続けています。

80年代や90年代に香港に建てられた建築の代表作と言えば、誰もがノーマン・フォスター(Sir Norman Foster)設計の香港上海銀行・香港本店(HSBC Headquarter)やイオ・ミン・ペイ(Ieoh Ming Pei)設計の中銀大廈(Bank of China Tower)を思い浮かべると思いますが、隠れた名(迷?)作が、ポール・ルドルフ(Paul Rudolph)設計の力寶中心(Lippo Centre)です。この建物は金鐘(Admiralty)地区の、金鐘道(Queen's Road)に中銀大廈と向かい合うように建っています。香港で多用されているハーフミラーガラスはもちろん、大胆にカッティングされた側面は、まるでレゴブロックを積み重ねたような感じです。やはり、「ブロック」と形容させてしまうほどのデジタルな感覚と、風水などで占ったであろうこのビルの設計(二つのタワーは上空から見ると縁起の良いとされる八角形をしています)のアナログな感覚との、違和感を伴う共存こそが、この建物の複雑な形の目的なのかもしれません。

この独特のデザイン、「コアラがユーカリの葉にしがみついている」ように見えるとも言われているそうです。確かに、見えなくもないかも……。1980年代、日本がバブルに浮かれていた頃、ある日系リゾート開発会社がこの力寶中心の所有権を一時期買収しましたが、バブル崩壊と共にこの会社もなくなり、今は中華人民共和国政府系投資企業の中国光大集團が所有しています。


【力寶中心(Lippo Centre)】

《Lippo Centre One》
竣工年:1988年
高さ:186.0m
階数:地上48階建
用途:オフィス

《Lippo Centre Two》
竣工年:1988年
高さ:172.0m
階数:地上48階建
用途:オフィス

力寶中心全景。八角形をしたツインビルで金鐘地区の中心的なビルのひとつ。背後に見える金色の高い建物は、灣仔のセントラルプラザ(中環廣場)。

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力寶中心と東遠金融中心(Far East Financial Centre)。香港の顔、金融街の代表的風景。

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地上から見上げた力寶中心。複雑な造形は、ハーフミラーガラスと相まって未来的な感覚を与える。