クロダカイチの香港建物探記
黒田 海智(くろだ かいち)

東京都出身。コミックテイストを軸としたイラストレーションを製作。2005年に『happiness ten』展、2006年には六本木のスーパーデラックスなどで作品を展示。1998年の初渡港以来、趣味から主に香港の超高層の建築研究とサブカルチャー探訪を行う。

【香港上海銀行総廈:
Hong Kong and Shanghai Banking Corporation Headquarter】

今回は、香港上海銀行(以下HSBC)の香港本店ビルです。このビルは、香港の現代を象徴するビルとして中国銀行タワー(Bank of China Tower)と共に有名な建物です。

HSBCの建つ場所は香港島・中環(Central)のQueen's Road1という住所、直訳すれば「女王通り1番地」となり、即ちここは香港の『中心』にあることを意味します。

SBCは香港返還を前にした1991年に、本拠地をイギリスのロンドンへ移しているものの、引き続き香港も最も重要な拠点の一つとなっています。香港ではイギリス統治時代から、紙幣の発券も市中銀行が行うという、世界でも珍しいシステムを取っていますが、現在、中国銀行・香港支店(Bank of China Hong Kong)とスタンダード・チャータード銀行(Standard Chartered Bank)、そしてこのHSBCの三行が発券を担当しています。この三つある紙幣発行銀行の内中でHSBCの発行高は最も多いのですが、現在から一つ前の旧札にはこの建物が描かれていました。

イギリスを代表する建築家のノーマン・フォスター卿(Sir Norman Foster)により設計されたこのビルは、まさに『秀逸』というに相応しい建物です。このHSBCビルはフォスターを代表する建築であり、その中でも最も秀でた作品として知られています。また、香港を良く知る人の中ではおなじみの建物の一つではないでしょうか?

建物は、設計当時としては最先端の技術を駆使して設計されました。確かに20余年経った今でも見劣りしない外観、漸く最近周りのビルがその風貌に追い付いて来たかな?といった感じです。20年も経てば、内部のコンピューターやオフィスの各種機器類の環境は当然変わっているはずなので、それらの更新処理は一体どうしているのだろう? という疑問も湧いて来ます。

2001年9月11日に崩壊してしまった、ニューヨークの世界貿易センタービル(World Trade Center)を設計したミノル・ヤマサキは、生前に「建物の寿命はせいぜい20年(構造上ではなく経済的、或いは形式的にという意味で…)」と言っていたそうです。これは、20年後の状況を予想する事はとても難しく、それを見据えた建築を建てる事は非常に困難だ、と言いう事です。そう考えると、HSBCビルは的確に未来を想定していた……とまでは行かないのかも知れませんが、あらかじめ様々な可能性が想定され、それに見合うサービスが備わっていたということで、とても驚異的な事だとも思えます。実際、クライアントのHSBC側からフォスター卿へは、「今後50年間陳腐化しないビルの設計を…」といった注文が出されたともいわれています。

この建物は最新鋭のテクノロジーを駆使している反面、設計については風水師の意見が取り入れられるといった香港らしいエピソードが残っている事でも有名です。ビルの最下部にあるピロティ(中空空間)は、建物によって運気が下がらない様に(一説には、ここを通る龍の道を遮らない為…、とも)作られているそうです。その為かどうかは分かりませんが、香港上海銀行は世界でも第四位のメガバンクとして成長しています。

香港でフォスターはHSBCビルの他に、香港の玄関口である『香港国際空港ターミナルビル』と、九龍半島にある、中国への越境列車が発着する『九廣鐵路・紅ハム (Hong Hum)駅舎』を設計しています。日本では東京都文京区の御茶ノ水界隈にある『センチュリータワー』はフォスターの設計によるもので、HSBCビルとの類似点も多く見られる建物として知られています。また、ロンドンの新都心、カナリーワーフにあるHSBC本部(8 Canada Square)も、このフォスターが設計しています。



【香港上海銀行総廈】

竣工年:1985年

高さ:178.8m

階数:地上48階建、地下4階建

用途:業務、及びオフィスに使用


URL:http://www.hsbc.com.hk/1/2/home

HSBCの本店ビル外観。
鉄骨の組み方が、△印になっている事から地元では『蟹ビル』と言われているのだそう。

2

正面を見上げたところ。
竣工当時は中環でも高い方のビルだったが、現在では周囲の超高層ビルに埋もれつつある。

1

ビル内部。
天井から降り注ぐ自然光が気持ちいい!!

3

正面玄関裏。
この段差も、風水と関係があるのかも知れない。
ここは休日になると、フィリピン系のメイドさん達の集会でごった返します。